(1)政治連盟の必要性
今日、我々社会保険労務士は、現行の社会保険労務士法に則り、業務を行っています。社会保険労務士法は、
昭和43年6月3日に公布、同年12月2日に施行され、その後、世の中の情勢に応じ、数次の改正が加えられ、
今日に至っています。この改正は我々に多くの恩恵をもたらすものでした。
例えば、第一次法改正(昭和53年5月20日公布)では提出代行業務の追加、第三次法改正(昭和61年5月23日公布)では
事務代理制度が新設される等、所要の整備がされました。
第五次(平成10年5月6日公布)では事務代理に審査請求を含めるための改正が行われ、
第六次(平成14年11月27日公布)では、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」の紛争調整委員会における
「あっせん代理」を業務に追加するための改正が行われました。この第六次法改正は、
社会保険労務士が労働紛争の解決に関与できるようになった第一歩であります。
これらは、何もせずに改正されてきたわけではなく、全国社会保険労務士会連合会(以下「連合会」という。)の
希望を反映させてきたものです。社会保険労務士法は、議員立法であることから、改正も議員提案で審議されることが
通例であるとされ、実際、第六次までの改正のうち政府提案で行われたのは平成10年の第五次改正のみであります。
立法の経緯から、社会保険労務士制度を改善するためには、政治家に制度を理解してもらい、更には賛成もしてもらう
必要があるといえます。政治家に制度改善のための要望を訴え、意見の陳情をするのは、連合会や愛知県社会保険労務士会
(以下「愛知会」という。)が行うにしても、逆に政治家からお願いをされるとき
(具体的には、次の選挙での推薦や応援の依頼を頼まれます。)には連合会や愛知会は活動することが出来ません。
政治資金規制法による制限があるためです。必然的にこの部分は全国社会保険労務士政治連盟(以下「全国政連」という。)や
愛知県社会保険労務士政治連盟(以下「愛知政連」という。)が対応することとなり、ここに政治連盟の意義があります。
(2)第七次法改正と今後の方向性(紛争解決手続代理業務を中心として)
第六次改正による、「あっせん代理」として認められた業務は、あっせん期日における意見陳述、あっせん案の提示を求めること、あっせん案の受諾及びあっせん申請の取り下げ等を行うことまでであり、社会保険労務士が当事者本人に代わって和解契約を締結することは、「あっせん代理」権限の範囲外で、弁護士法第72条に抵触する行為とされてきました。
全国政連は、平成15年10月28日に公示された第四三回衆議院議員総選挙への支援対応にあたり、要望書を作成し、推薦する各立候補者に対し要望事項(全国政連№.27参照)についての理解を求めています。五つある事項の一番目には、「社会保険労務士自らが個別労働紛争に関し和解や代理を行うことができるようにしていただきたいこと。これに関連して弁護士法第72条を見直し、代理、和解等の法律事務を開放していただきたいこと。」を掲げ、第七次改正に向けての重点項目を明らかにしました。
この後、司法制度改革推進本部での「隣接法律専門職種の活用等」における議論で、関係各方面から社会保険労務士への対応が厳しいとの情報が入るなか、紆余曲折を経て、平成17年6月10日に社会保険労務士法の一部改正法案が成立、6月17日法律第62号として公布され、第七次の法改正が実現しました。なお、今回の改正は司法制度改革の一環であるとのことで閣法(政府提案)により成立したものです。第七次改正により、特定社会保険労務士について、「あっせん代理」に加え、手続に関する相談、和解の交渉及び和解契約の締結の代理までをも行うことができる権利が認められることとなり、堀谷義明全国社会保険労務士政治連盟会長は、全国政連№.28の紙面で、今回獲得した成果を、日本弁護士連合会からの言葉を引用し、「二階級特進」であると表現しています。
政治連盟は、平成11年から6年間にわたり、司法制度改革への対応を最重要点課題として位置づけてきました。第七次法改正により、紛争解決手続代理業務の拡大等の成果を得ましたが、社会保険労務士制度の発展を図るためには、まだまだ改善すべき事項が残されています。ADR法第6条による法務大臣認証に基づき厚生労働大臣が指定する、いわゆる「民間認証ADR機関」での紛争解決手続においては、紛争価格が60万円を超える事件は弁護士との共同受任が必要とされており、解雇などの紛争価格の算定が困難な事件は、60万円を越えるものとして単独受任は認められていません。
全国政連は、平成18年11月13日に開催された自由民主党の厚生労働部会・労働関係団体委員会合同会議において、「社会保険労務士の要望事項について」と題した四項目についての要請(全国政連№.31参照)を行っています。四つの事項の一番目には、簡裁訴訟代理権等の付与について、「……民間型ADR機関において単独受任できる紛争目的価格の範囲60万円の制限を撤廃するとともに、簡易裁判所における個別労働紛争に関する訴訟代理権、地方裁判所以上の審級における出廷陳述権等を付与していただきたいこと。」を掲げており、第八次改正に向けての方向性を明らかにしました。
愛知政連においても、平成19年5月2日、愛知県社会保険労務士政治連盟賛助会員である荒木清寛議員(公明党社会保険労務士議員懇談会参議院議員副幹事長)との懇談会において、小嶌招啓愛知県社会保険労務士政治連盟会長が四項目についての要望を行い、また「街角の社会保険支援センター」構想案への理解を求めたところであります。なお、5月10日に開催された厚生労働委員会では、四項目のうち、三番目の事項である市場化テスト事業に関し、同党所属の参議院議員がこの問題を質疑し、政府参考人(青柳親房氏)より、「私どもとしては、今後とも社会保険庁の改革を推進していく上で社会保険労務士の方々の協力あるいは参画というのは不可欠であるという認識の下に、このような必要な対応を図ってまいりたいというふうに考えております」との答弁を引き出しています。
以上、紛争解決手続に関する分野を中心に政治連盟が制度拡充のために行ってきた活動の概要について触れました。この他、規制改革を背景に社会保険労務士の独占業務を開放させようとする動きに対し、これに反対する運動、社会保険庁改革法案における保険料未納による社会保険労務士の登録拒否事由追加についての反対表明等、制度を維持していくための活動も政治連盟に課せられた重要な使命であります。
(3)お願い
政治連盟は、特定の政党に傾倒している訳ではありません。基盤である社会保険労務法は議員立法であり、過去の法改正は、その多くが、議員提案で審議され成立したものです。議員立法で法改正を行うには全会一致が原則で、与党のみならず全野党を含めた国会議員全員の理解と協力が不可欠であります。社会保険労務士法は、国民の大多数が影響を受けるというようなタイプの法律ではなく、我々社会保険労務士の周辺にしか影響を及ぼさないものであります。ある政党が意見を統一して制度を保護してくれるというようなことは期待ができず、我々自らが行動していく必要があります。思想信条の自由を理由に政治連盟への加入を拒まれる方がおられます。ここ数年来、政治連盟は、労働紛争処理分野における司法参入を重点に活動してきました。
確かに社会保険労務士が行う業務のうち労働に関する分野は特定の思想又は信条との関連を想起させるものであります。政治連盟は、特定の思想信条とは無関係に、制度そのものの強化を図ることだけを目的に活動します。そして、業務の基盤となる制度が強化されれば、その方にも、等しく、利益がもたらされることとなるのです。また、政治連盟へ加入しないことについて、政治とは距離を置くとか、制度改善は必要ないとか、政治連盟の姿が見えてこないとかといった理由を挙げられる方もおられます。繰り返しとなりますが、政治連盟は必ずしも、制度を改善させるためだけにあるのでなく、今日ある制度を維持させるためにも必要な活動をしているのです。
どうか、政治連盟の果たしている役割について、ご理解を賜わり、政治連盟への加入及び会費の納入についてご協力いただきますようお願いします。
平成19年9月
愛知県社会保険労務士政治連盟常任幹事